開発秘話

犬の介護グッズを製作した直接的な要因は、2頭の雑種犬の介護体験がきっかけになりました。


一頭は京都市動物相談所から引き取った、半ラブ和犬系の「ぱる」。

もう一頭は阪神淡路大震災の際に動物愛護団体『アーク』で保護された、北方スピッツ系雑種の「ぷんて」です。

一年遅れで飼い始めた「ぷんて」が、かかりつけ獣医も見逃していた末期癌で突然倒れ、余命2週間の所を必死の看病で4ヶ月間の延命は致しましたが、2008年2月に13才と4ヵ月で虹の橋を渡りました。

残された「ぱる」も兄弟分を失ってから一気に老化が進行し、後ろ足が怪しくなったのを契機に、介護本やネットで調べたケア方法をいろいろ試し、さらにはペットショップやホームセンターなどで老犬介助グッズを買い込んでは、いろいろ使い始めたのが08年秋のことでした。

しかし純血種でも超小型のチワワから超大型のセントバーナードまで、その体重差は80kg前後ある訳で、ましてや雄雌や個体差まで含めると、同じ犬種でも千差万別。うちの「ぱる」のような雑種は規格外ですから大きさもまちまちで、市販の介護用品を選んでみても、首周りはぴったりあっても、胴回りがぶかぶかであったり、「さぁ介護」と思い立っても装着が面倒であったり、無駄なパーツが付いていてひっかかったり、もつれたり…介護グッズの開発者はユーザー目線で老犬介護を捉えていないことを痛感した訳で、ぶっちゃけ「実際に老犬でテストしてないんではないか?」と憤りを感じた訳ですよ。
で、業を煮やして「とうちゃんがええのんこしらえたる」と、市販品をちまちま改造しはじめたんですが…やはり「ぷんて」に対して、何もしてやれなかった負い目と言うのも、やはり心の奥底に隠れていたと思います。

幸いにしてアパレル業を手がけておりますので、古くからなじみの縫製工場に持ち込んでは「ここを切って」「ここを縫製して」と無理難題をお願いして改造に明け暮れておりましたが…実を言いますと、私自分自身も「ぷんて」が倒れた前後に救急車で集中治療室に担ぎ込まれる騒ぎをおこしまして、右鎖関節脱臼・靭帯断裂で辛いリハビリを経験して…わずか2ヶ月間の固定具装着で右腕筋肉は半分ほどに萎縮・硬縮し、運動領域と筋力回復で大変に辛い、痛い思いをしただけに、「絶対寝たきりにさせたくない」との願いもありました。

しかしながら、関節を削って人工靭帯を入れての切った貼ったのサイボーグですから、やはり後遺症が残ってしまいまして、正直毎日の老犬介護が苦痛以外の何者でもない状態…ここで発想の転換。 「自分が辛いのなら、世間の方はもっと辛いのだろう」と、職権を思いっきり乱用して、YKKだとか東洋紡だとか旭化成だとかの服飾資材をかき集めて、オリジナルの老犬介護ハーネスの開発がスタートした訳です。

個人的な趣味で「モーターパラグライダー」愛好者でもありましたので、ハーネスやベルト・バックル類の扱いに関してはかなりのノウハウを持っていましたから、「老犬介護ハーネス」の基本骨格は速やかにできたのですが…「容易な装着」「簡単洗浄」「幅広いサイズ調整」「軽量」「強度」とやっているうちに、様々な取り回しやパーツを入れ換えた試作品が山のように溜まり、ついには「針がとんで縫えません!」と縫製屋が泣きを入れるようになりまして、ついには厚縫用特殊工業ミシンを入手。
ただこんな特殊ミシン、靴屋さんとか皮物屋さんしか使わない特殊な代物でして、縫製屋も「使い方がわからん」とそっぽ向きましたから…結局家庭科の授業で雑巾を縫ったのが最後のおっちゃんが、自分で縫いはじめた訳です。

同時に歩行補助具の方も、最初は室内用にと、プラケースにキャスターを取り付けた日曜大工レベルでスタートしましたが、老犬介護ハーネス装着にはまったく抵抗しなかった「ぱる」も、よっぽど座り心地が悪いのか嫌がって座ってくれません。
この当時は、ショートリードで下半身を支え持ちながら、上半身をロングリードでコントロールしていたのが、後の「3点吊リード」の原型になりましたが…とにかく右肩に後遺症を抱える身にとって、朝夕各1時間の散歩タイムは結構肉体的な負担がきつく感じられるようになりました。

モーターパラグライダーなんてマイナースポーツをやってたぐらいですから、自動車船舶バイクに自転車と、個人的に乗り物全般・機械全般が好きでしたし、以前機械などの力学要素に凝って独学していた時期もありましたから、老犬介護ハーネスをぶら下げる形の、現在の歩行補助具の基本骨格も、2009年のGW明けには固まっていました。 しかしながら金属加工が前提になりますし、ちゃんとした設計図面が引けるスキルは持ち合わせていませんでしたし、メンテナンス性と強度を考えるとステンレスやアルミ合金で製作するのがベストと判っていましたが…どちらもアルゴンガスを使ったtigやmig、またはレーザー溶接になりますから、町場の”鉄”工所では加工が出来ないんですよ。

で歩行補助具2号機、「ステンパイプの切断・曲げ・穴開け・溶接できますか?」と、ダメ元で飛び込んだのが「山田鉄工所」さん。
前々から設備の整った、大きな鉄工所だとは判っていましたが…製麺機械などの工場機械を製作されているのが本業と、後から社員さんに教えてもらった訳ですけれど…そこの会長さんが手弁当で図面を引いてくださって、ようやく現物が出来上がったのが夏頃。

実地テストをはじめて判ったことがいくつかありますが、まず車輪にキャスターを使ったことが裏目に出ました。
コスト面もあって、山田鉄工所さんが調達してくださったのですが、車止めなどの段差が越えにくい。耐久性にも問題がありました。
ショルダー部分を直角曲げし、ガジェットを当てて補強していますが、見た目もよろしくない。
そしてテール部分も曲げ加工ですが、お座りや伏せなどの休憩モードで尻尾をはさみこむこともありました。そのほかにも細々した部分があったのですが…

しかしそれらの問題点はまだまだ序の口でして…後ろ足の衰えを補助するための2号機でしたが、9年は冷夏とは言え、冷房が効かない京町家のこと、「ぱる」の衰弱は予想外に進み、夏のお別れも半分覚悟しておりましたが…ついには前脚の踏ん張りも効かなくなりまして、ハンドルに上半身の体重が載っかるようになり、肩に後遺症を持つ身にとって、これが本当に辛いんですね。

そして改良を施したのが「歩行補助具試作3号機」です。
タイヤはOGK技研から取り寄せた30パイの発泡車輪。これで段差越えも問題なし。ついでに収納のことも考えて、車輪折りたたみ機能をプラス。
ただ車輪の取付方法は二転三転して、結局当方の言い分を通して片持ち支持のバージョン3に改めたところ、テールパイプ延長との相乗効果で、上半身と下半身の加重を釣り合わせる事ができ、ついでに尻尾も挟みにくくなりました。
元々スケボータイプやリヤカータイプの歩行補助具よりも、犬がフレーム内に収まる低重心と広いトレッド幅の設計ですし、介助者と両輪の三点支持ですから横方向の安定性はすこぶる良いのですが、さらにショルダー角を5度開いたことで安定性がますます向上しましたので、片輪を段差の上にのせた斜め走行や、左右へ傾斜した地形でも安心して歩行介助ができるようになりました。

この3号機とハーネスのお陰で、毎朝夕適度な運動を行ったことも功を奏してか、「ぱる」は無事秋を迎える事ができましたが…今度は膀胱に腫瘍が見つかりまして、腹部を圧迫しない腹部疾患対応のハーネス作成に挑むことになりました。
同時に歩行補助具の方も3号機をたたき台にして、細部の寸法などを見直し、ブレーキを取り付けたタイプの製作が始まりましたが…ブレーキ付きの車輪まではトントン拍子でしたが、まさかレバーやワイヤーで苦労するとは。。。

その後特許申請でも、ここに書けないような災難がありましたが、モニターで使って頂いた方の喜びの声と、周りの皆さんの励ましと、なにより老化の進む体でテストドライブをこなし、ひとつの問題を解決したら、また新たな課題を与えてくれる「ぱる」のお陰で、こうやって市販するに至りました。

より多くのおじいちゃん犬おばあちゃん犬と、愛情豊かな飼い主さんに、本当に楽してもらいたい。そんな願いを込めて老犬介護ハーネスを一針一針縫い上げていますから、そんなに大量生産はできませんけれど、多くの方に使って頂けたら幸いです。。。
2009年12月12日 (ぱる16才の誕生日) 製作責任者 川添貴之

追記
開発に多大な貢献をしてくれたその「ぱる」も、2010年10月28日、私の腕の中で息を引き取りました。
亡くなる10日前までは歩行補助具で散歩していました。
その半月前には前足の神経麻痺が進行し、足首が上手く返せなくなりましたが、それでも頑張って歩きました。
亡くなる3日前までは、リビングやガレージを歩かせました。

あと一月半ほど頑張れば、17歳の誕生日だったのに…痴呆・無駄鳴きの末に口吻を自らの犬歯で食い破ってしまい、同時に舌の神経麻痺で燕下障害も発生し、25日から点滴で延命致しましたが…腎不全・肺水腫でしたがひどく苦しむこともなく、眠るように… 亡くなるその日も試作品のハーネスを着用し、介護に、そして治療に、本当に最期まで役立ちました。
ぱる、ぷんて、安らかに。。

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製造運営責任者:川添貴之

メッセージ

京友禅アロハシャツ製造直販webショップの【玉葱工房】では、17歳を目前にして星になった『ぱる』と、必死の闘病生活もやむなく星となった『ぷんて』の、大型雑種犬2頭延べ4年の介護・看護経験を生かして独自の老犬介護用品を開発し、2010年初頭より発売を開始。すでに累計1000セットを出荷し、日本全国の多くの老犬と飼い主さんから、『介護が楽になった』と感謝のお手紙やメールが毎日届いています。